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Channel: 【駿河台大学】現代文化学部からのお知らせ
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教育活動と地域貢献

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現代文化学部 天野宏司准教授

 今日の大学に求められる役割は、単に優秀な人材を社会に送り込む教育活動だけに留まりません。立地地域に、教育活動や教員の研究活動が還元され、地域貢献に繋げることも大事な役割の一つと期待されています。

 そんな中、天野は奥武蔵エリアの秩父市・飯能市・横瀬町などと協力しながら観光事業の効果測定でお手伝いをさせて貰っています。

 横瀬町では、2013年度に観光実態調査を実施する予定で、天野は昨年の寺坂棚田かがり火ホタル祭で、調査票のパイロット版を作り来場者様へのアンケート調査を実施し、準備を進めてきました。この観光実態調査は、県の緊急雇用対策事業費を活用して実施の段取りを整えている最中なのですが、これから卒業研究を書くゼミ生のうち2名がこのお手伝いをしてくれています。

 一人は観光農園について、来園者へのアンケート調査を実施するために現在、1軒1軒足を運び協力依頼をしています。すでに、この時期はイチゴ狩りシーズンが始まっており、少々出足が遅れた感がありますが、ようやく調査が軌道に乗り始めました。もう一人は、道の駅の機能別利用実態を調べたいと言うことで、道の駅芦ヶ久保に協力依頼をして調査を始めるところまで準備が進みました。

20130302_edup001.jpg こういう書き方をすると、天野が調査テーマを与え、調べ「させている」ように思われるかもしれませんが、実態はそう単純では有りませんでした。確かに調査地域についてのディレクションはしましたが、「先生!あたしイチゴが好き!!」という、研究動機にまで手を突っ込むことは、学生の自立心・自律性を育てるためには控える必要があるはずです。たまたま、イチゴを食べながら研究を進められそうなテーマとしてイチゴ農家に対する研究が浮かび上がり、西武秩父線の開業期に大々的に展開し、それから40年近く経った場所である横瀬町が立地地域内にあり、たまたま指導教員である天野がおつきあいのある場所であったわけです。

 横瀬町の観光農園はイチゴのほかにプラム・ブドウ・リンゴなど多岐にわたりますので、観光農園全体に対する調査が方向づけられました。この1ヶ月、学生は毎日のように横瀬町に通い、農園周りをしています。最初は依頼文の書き方も知らず、また電話でご都合を伺う術も持ち合わせていないような状態でした。高齢化が進む営農者に対して、ジェネレーション・ギャップからか、世間話一つできない状態では、聞き取り調査一つ満足にできません。このため、当初は、付きっきりでの指導を必要とし、天野も連日のように横瀬町に通っています。

20130302_edup002.jpg 学生とは対面で直接接するのが仕事ですので、今まであまり感じていなかったのですが、今回、学生の指導を通じ学んだことがあります。それは、携帯電話の普及は、明らかに彼ら学生から、社会的に必要な「節度ある電話のかけ方」というスキルを奪っているということです。携帯では、着信した相手が表示されますので、いきなり「もしもし、わたし!・昨日のことなんだけど~」と、自己紹介もせずに、要件から入れてしまう訳で、彼らにとってはそれが当たり前のことです。しかし、農園訪問のためにアポ取りの電話をかけさせるとそうはいきません。お互い未知な間柄であり、かつ手前は先様にとって、歓迎されざる・怪しげな立場で、下手に立って電話をせねばなりません。確実に挙動不審者に転落してしまいます。 端でみている僕にしてみれば、普段の小生意気な口を利く彼らが、しどろもどろに電話をかけるさまは、小喜劇であると同時に、先方への失礼が無いように...と、肝が冷やされるサスペンスが展開してくれます。

 要は、対人コミュニケーション・スキルが彼らには十分備わっていないわけです。同世代の、あるいは家族間の、または慣れ親しんだアルバイトの接客スキルで築き上げてきたコミュニケーション能力は、自分と50歳も年の離れた営農者との会話にはほとんど役に立たないようで、コミュニケーションの根幹である「相手の立場に立つ」ことすらできずに苦戦しています。それでも不思議なもので、回数を重ねてくると、電話については、きちんとした応対ができるようになってきました。対面での聞き取り調査にはまだ不安が残りますが...

 調査にご協力いただいている各農園の皆様のおかげで、学生は確実に社会性を身につけつつあります。学生の卒業研究執筆という教育活動は、天野のようなフィールドワークを中心に研究活動をする者にとって、学内だけで指導を留めることは難しく、社会の皆様のお力添えを得て、卒業研究の指導をすることが多くなります。学生自身にとっては、直接的には卒業研究の作成のために必要なさまざまなデータ収集を実現できるだけでなく、上述のような社会人基礎力が涵養されていくことになるわけです。

 「育てていただいたご恩にきちんとお返しするように」と、卒業研究の成果が地域にフィードバックされる必要性があるわけで、横瀬町が計画している観光実態調査の重要な一部としてまとめてくれることを、天野だけで無く、ご協力いただいている農園の皆様が期待しています。

 卒業研究の執筆を通じ、学生自身の成長と、地域貢献が同時に達成されるのは、フィールドワーカーの醍醐味の一つです。訪れるたびに振る舞われる旬のイチゴのお陰で、天野の身も確実に育ってきました。「育てていただいた分はお返しするように」と学生指導をした手前、天野も観光実態調査の完成で報恩をせねばなりません。その話はいずれ別の機会に。 

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